HYKE(ハイク)、その世界観。

古着や歴史背景を独自のフィルターを通して再構築する、タイムレスな服。

デザイナープロフィール

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派手な装飾はない。シンプルでクリーン、どこか静寂感を漂わせるHYKE(ハイク)の服。ベーシックなのに着ると違いが歴然なのは、素材や縫製への並々ならぬこだわりが貫かれているからか。レディスブランドでありながらテーラードの細密さとワークやミリタリーの表情を持ち、さらに仕上がりはモードという希有な存在だ。

ブランドのコンセプトはHERITAGE AND EVOLUTION(服飾の歴史、遺産を自らの感性で独自に進化させる)。ヴィンテージのミリタリー、ワーク、ユニフォーム、スポーツなどの要素を取り入れて再構築したデザインが特徴的だ。デザイナーの吉原秀明氏と大出由紀子氏は「過去のファッションを研究するのが大好き」と語る。「古いものから影響を受ける事が多いです。ワークウェアやミリタリー、スポーツ、ユニフォームなど、古い洋服からインスピレーションを得て、さらに古着の当時の時代背景や技術を調べます。生地やパターン、付属品などを素材として分解し、さらに自分たちのフィルターを通して新しい形に仕上げていきます」。

 

伝説のブランドgreenを経てHYKEとしての再スタート

約20年前、代官山で古着屋を営んでいたデザイナーの2人。「海外でいいものだけを買い付けて自分の気に入ったものを店に並べていました。売れて行くとモノ寂しい気持ちになっていたりして、古着屋という商売をするのはあまり向いていなかったかもしれません。自分の好きな服があると、売りたくないなと思ってしまって。そこで、自分たちが好きなエッセンスが入った服を作ることに。それがgreen(グリーン)というブランドの始まりでした」。1998年にgreenを立ち上げ、2人はデザイナーとしての活動をスタートした。東京コレクションにも参加し、当時低迷気味だった東京のファッション業界を盛り上げ、旋風を起こした。トレンチコート、モッズコート、デニム…様々な定番アイテムを生み出し、爆発的な人気を誇ったブランドは2009年春夏コレクションで活動休止した。

その後、約3年間の休止期間を経てブランド名をHYKEに改め活動を再開した。「限りなくゼロに近い状態で再スタートしました。新しくひとつひとつ、greenを始めた頃のようにこつこつと歩んで行けたらいいなという気持ちで始めました。ブランド名のHYKEは家族の名前を1文字づつ並べたもので、特に意味はありません。モノ作りをする時に、何か縛られる意味がない名前の方がいいなと思ったのです」。

green時代よりも、さらに研ぎすまされて大人の雰囲気に成長したHYKE。カジュアル感は残しつつ、しなやかで柔らかな空気感が加わった。

 

素材へのこだわり、いいものを作りたいという想い

HYKEの特徴のひとつに、独特な素材が挙げられる。ベーシックな服を特別に見せているのはこだわり抜いた生地選びと縫製の良さだ。ディテールが少ない分、素材の雰囲気には気を使っているそうだ。「糸から作る時には古着を切って繊維をほぐして、太さや何本どりで出来ているのか、などを見ます。以前は、過去に遡ってとことん生地作りを掘り下げたりしましたが、今はよりスタンダードな表情の素材に魅力を感じているので、それらをベースに糸の種類、厚さ、仕上げ方法などでアレンジしていくことが主流になっています。工場選びにもこだわりがある。「同じパターン、同じ生地でも、縫製工場によって全く仕上がりが違うので、適材適所を心がけています。テーラードジャケットは本格的な仕立てが得意な専門の工場に出すとか。スラックスの要素を持ちつつデザイン性の高いパンツの場合は、メンズのスラックス工場に出すのか、レディスのデザインパンツが得意な工場に依頼するのかなど、どこからスタートして調整していくのが理想のゴールへの最短距離なのかを常に考えています」。コレクションのおよそ8、9割を日本の生地を用いて日本の工場で作っており、生産者から消費者までの良いサイクルを構築することを意識し続けている。それは全て、いい服を作って大切に着てほしいという気持ちからだ。         

 デザイナーの吉原氏はメンズの服飾学校でテーラーリングを学び、大出氏は実家が縫製工場で常に洋服作りの現場が身近にあった。10代の頃からワークやミリタリーといったメンズ古着の小さいサイズばかりを選んで着ていたそうだ。

「男性デザイナーと、メンズ服にしか興味がない女性デザイナーが作るレディスブランド。だから、メンズとレディスの要素がバランス良く表現できているのかもしれません」。2016年秋冬コレクションのインスピレーションはワークとミリタリー。ワークシャツのチェック柄は色味を抑えて新たに起こしたチェック柄で表現したり、サーマルのカットソーが上質なニットに進化したりとメンズのディテールが絶妙にアレンジされて女性らしい服に転換されている。

 

マッキントッシュ、アディダスとのコラボレーション

HYKEは、マッキントッシュやアディダスとのコラボレーションの影響で海外にも知られる存在になってきた。今シーズンが最終コレクションとなったマッキントッシュではウール100%の素材にゴム引き加工を施したコートを作り、話題になっている。「一番の魅力は番手が細く薄い素材でもゴム引きするとぱりっとするのが面白い。裏地がコットンで表がウール。ウールを使うことで独特の光沢感が出て美しく仕上がりました」。

HYKEの最新コレクションでも、縮絨ウールを使用したコートが目立っていた。ウール100%でかなり厚めのウールなのに、柔らかで軽やかなコートは女性らしいしなやかさを持っている。green時代からウールをはじめコットンや麻など天然素材の印象が強いが、最近では天然×化学繊維で表現することも多くなってきたという。「天然素材は比較的多いと思います。昔は、古着の生地を再現していたこともあって何が何でも天然素材で、というこだわりがありました。でも最近では合繊も日常性や扱いやすさを考えるとデザインによっては「あり」なのではという考えになってきました。例えばシルクは美しいけれど縫い目がスリップしたり破けやすかったり。強度や着用時のシワの問題が合繊で軽減できるなら、その方が良い場合もあります」。

常に、その時に自分たちがいいと思うものを作るようにしているという2人。

「自分の気持ちに正直なものを作るようにしています。今の自分たちにとって響くもの、という気持ちで。古い洋服は変わらず好きですが、最新の面白いディテール、アウトドアなど素材の進化など新しいものに惹かれる事もあります」。

過去のものと最新のもの、天然素材と化学繊維など新旧を分解し、組み合わせることでHYKEのフィルターを通した新しい服が完成している。

今、東京を拠点に活動する日本人のウィメンズデザイナーの中ではその注目度と実力は群を抜く存在のHYKEだが、なにも一握りのファッショニスタだけに支持されているわけではない。ファッション好きの若者はもちろん、様々なお洒落を楽しんで来た30~40代、さらにその親世代の大人達をも虜にしているのは、HYKEが持つタイムレスな魅力。長い間使われていた洋服のディテールを用いて、丁寧に大切に作られた服だからこそ、世代を超えて愛されているのだろう。

ニューヨークでの展示会をスタートして2シーズン目。「良さを分かってもらえるまでに時間がかかるブランドだと思っているので、ゆっくりコツコツとやっていきたいと思います」と吉原氏。着実に欧米マーケットでのファンも増やしつつある。

インタビュー・文:小泉恵里

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