デザイナー、トム・ブラウン
写真提供:キルケ
「インスピレーションはどこからでもやってきます」とトム・ブラウンは言う。「映画や音楽、街を歩いている時でさえも」。ブラウンの歩いてきた軌跡は、彼の現在のキャリアを導くものとなっている。故郷ペンシルベニア州アレンタウンから遠く離れ、現在はニューヨークを拠点に活動。ブラウンのクリエイティビティは、自身の名を冠したブランドにおいて存分に発揮されている。
もしファッションデザイナーになっていなかったら、映画監督になっていただろうと話すブラウン。大学で経済学を学んだのち、ロサンゼルスで俳優として活動。その後、ニューヨークに移り、ジョルジオ・アルマーニのショールームで販売員として勤務。ここでポロ ラルフローレンのブランド、クラブ・モナコにヘッドハントされ、何年にもわたりローレンの傍らで働く機会を得た。
2001年、予約限定のショップと5着のスーツを携えて自身のブランドを設立。2003年にはプレタポルテコレクションを発表する。伝統に基づいたハンドメイドのスーツは、メトロポリタン美術館の衣装研究所やイギリスのヴィクトリア&アルバート博物館、バースのファッション博物館にも認められるほどに成長。ブラウンの斬新なテーラリングが、メンズ・ウィメンズ両方のファッションに大きなインパクトを与えたと言ってもいい。
アイコン的アイテムで、セレブたちも多数愛用。シャープなテーラリングは60年代初頭を思い起こさせるが、その革新的なデザインと職人技のおかげで現代風に、21世紀らしいものに昇華されている。クラシックなメンズスーツを一風変わった捉え方でデザインする手法、そして美しい劇場型プレゼンテーション。世界中のファッション業界も顧客もトム・ブラウンに魅了されている。
(左)千鳥格子柄クールウールブレザー(右)シングルのスポーツコート
どちらも今後発売予定のウールマーク認証のトム・ブラウンコレクション。
写真提供:コーリー・ヴァンデルプルフ
今回ザ・ウールマーク・カンパニーとコラボレーションするにあたり、「もうずっと前から、オーストラリアのメリノウールは私を支援してくれています。ウールのスーツ地をいつも使用していますから、ウールマークと組むのはとても自然なことでした」とコメント。
「生地はウールを使うことがほとんどです。作品はどれもそれぞれ特別」というブラウン。ウールに強い情熱を抱く彼のコレクションは、この天然の繊維が寒い時期だけのものであるという誤解を解くものにもなっている。「デザインする時はシーズンや気候をいつも考えているわけではありません。まずはコンセプトありきです」
ブラウンの座右の銘は、自分に誠実であれ。CFDAファッションアワードを2度、2008年GQデザイナー・オブ・ザ・イヤー、そして2012年ナショナル・デザイン・アワードを授賞するほどまでに高い評価を受けているのは、こんな謙虚な教えを守り続けているからなのだろう。